モーリス・ルブラン 奇巌城

さて今回読んだのはルパンシリーズでも屈指の傑作とされていてファンも多い「奇巌城」。

ジェーブル伯爵邸で、殺人事件と絵画の盗難事件が発生。負傷したはずのルパンが見つからない中、高校生探偵イジドール・ボートルレが見事に謎を解く。やがて伯爵令嬢レイモンドが誘拐されるが、イジドールはルパンの残した暗号から「エギュイユ」と「クルーズ」の単語を読み取り、クルーズ県のエギュイユ城に幽閉されていたレイモンドを救出するが、それすらもルパンの策略だった…

まずこの作品の醍醐味が、なかなか翻訳では伝わらない。原題「L'Aiguille creuse(エギュイユ・クルーズ)」は「空洞の針」の意味で、これは実はエギュイユ城ではないある場所を示しているのだが、そもそもこの暗号はルイ14世が作ったもので、国家全体をも脅かす内容が含まれているという設定でなかなか壮大だし、暗号は比較的単純なものなのだが、それが(当然だが)アルファベットでないと理解できない暗号なので日本語で読むと伝わりにくいうえに、あちこち寄り道をする展開のせいかこの設定自体がうまく小説の内容に生かされていないようにも思う。一部の章だけで突然語り手が出てくるのも違和感が大きい。

それでも魅力のある作品であることに間違いはなく、青年探偵とルパンの知恵比べが非常に面白い。「あちこち寄り道をする展開」もミステリ作品としては決して悪くはないと思う。ラストはまるで「女王陛下の007」を思わせる悲しい幕切れ。もっとルパン自身が魅力的に描かれてたら本当に傑作だったと思うのだが。

それといつもながら「シャーロック・ホームズ」が登場するのが気に入らない。キャラが全く違うのだから原典通り「ハーロック・ショルムズ」にすればいいのに。

私が読んだのは集英社文庫の江口清訳の版。2011年の「ナツイチ」の特殊装丁だったらしく、天野明とかいう人(漫画家?)が描いたひどいイラストのカヴァーがついている。古本でなきゃ絶対買わん。