中山七里 さよならドビュッシー

入院も2週間。さすがに読む本も枯渇してきたので、病院のデイルームに置いてあった文庫本を読んでみた。

この作家の、岬洋介というピアニストが探偵役の音楽ミステリーシリーズものの第一作で、「このミス」大賞受賞作とかでちょっと評判の作品だ。まあ読みやすくてサクッと読んでしまった。

2005年の2月。高校入学を控えた遥は資産家の娘。ピアニストを目指しているが、ある日家が火事になり、資産家の祖父と従姉妹でインドネシア国籍のルシアが焼死、遥も全身に大火傷を負ってしまう。医師の新条の奇跡的な治療で一命を取り留めた遥は岬洋介の指導を受けコンクール優勝を目指して特訓を開始する...

とここまで書いただけでもわかるようにかなり無理のある設定。体の30%以上に3度の火傷を負いながら、生存しただけでなく、半年もせずにピアノをコンクール優勝レベルで弾くまでに回復するとかちょっとあり得ないと思う。

で、そのあと祖父の遺産をめぐって遙の身の回りで不審な事故が起こり出すが、やがて殺人が起こってしまう...

ラストはとんでもないどんでん返しなのだが、これも驚くというより騙された感じ。いわゆる叙述トリックなのだが、はっきり言ってズルいと思う。トリックを知って読めば、途中で一人称小説のルールを破っている。まあでもよく考えるとそういうルールなんて読者がそう思ってるだけでどこにもないわけで、そういう意味ではすごい新しいのかもしれない。読後に振り返ってみるとこのどんでん返しに繋がるヒントは確かにちゃんと盛り込まれている。

ミステリ要素以外の部分の方は、説明的なセリフが多い事と登場する曲が全てありきたりな事を別にすると、音楽についても、障害者の心情についても非常によく書けた作品で、ミステリとそういう部分のどちらを重視して読むかで全く評価が変わってしまう作品だと思う。

この後岬洋介を探偵役にしてシリーズ化されているみたいだが、あんまり食指は伸びないかな。