キャロル&チューズデイ

カウボーイビバップ」「坂道のアポロン」「スペース☆ダンディ」などの作品を監督してきたアニメ作家渡辺信一郎監督の最新作。今年の春から半年間24回が放送され先日最終回を迎えた。

17歳のキャロルは火星の首都アルバシティに住む地球出身の孤児で、難民として火星にやってきて一人でバイト生活をして暮らしている。ミュージシャンとして成功する日を夢見て橋の上で路上ライブをする毎日だ。そんな彼女はある日、田舎町から家出してきたギターを抱えた同い年の少女チューズデイと出会う。意気投合した二人はユニットを組むことにする。このふたりのサクセスストーリーにライバルのアンジェラを絡めて物語は進んでいく。

これまでの作品もそれぞれ音楽にこだわった作品だったが、今回はミュージシャンを主人公に据えた、いわば音楽アニメだ。劇中主人公たち以外にも多数のミュージシャンが登場してパフォーマンスを行うのだが、劇中の音楽は2曲を除いてすべて英語(残りの2曲はフランス語とラテン語)。歌唱部分は字幕というこだわりよう。劇中の音楽はすべてかなりレベルが高く、これまでも音楽を物語の中心に据えたアニメ作品というのはあるにはあったが、これほどこだわった作品は他にはないと思う。マクロスなんかこれに比べたらナイーブそのもの。最初のマクロスはミンメイ以外に歌手なんかいるはずがない状況だったからいいが、マクロスFになるとランカとシェリル以外の歌手が全く出てこないのは不自然だと思う。

で、多数のミュージシャンが登場するのもラストでの、明らかに「We are the world」を意識したパフォーマンスへつなげていくための布石でもあるわけだが、これと排他主義を標榜する大統領候補(これがチューズデイの母親なのだが)のエピソードを絡めて後半はかなり緊張感が高くなるのも見事だった。かなりあからさまなトランプ批判でもある。

まあSF好きとしては火星の環境を保つ技術的な部分(ウエザープラントという施設があって気象をコントロールしているという事だけは描かれた)や、地球と火星の関係や、惑星間の交通手段などが全く描かれてない点、さらに火星から地球を見た時の明らかに誤った描き方が気にはなったが、それは物語上大した意味があることではない。

さて奇跡の七分間。ガスが言うように「たかが歌」だ。歌は状況を何も変えられない。でももしかしたら、聴く者の心を、ほんのちょっと変えることができるかもしれない。聴いてあなたの心がちょっとでも良い方向に変わったのなら、それが奇跡なのかもしれない。

でもその奇跡は、聴く者の心が頑なだったら決して訪れないんだよね。