読書

ストルガツキー そろそろ登れカタツムリ

ストルガツキーの「そろそろ登れカタツムリ」を再読。 これは主人公が違う「カンジート編」と「ペーレツ編」の二つの部分からなる作品で、1966年に「カンジート編」が最初に発表された。その後「ペーレツ編」が発表されるとソ連政府に発禁処分に。発表した雑…

スタニスワフ・レム 火星からの来訪者

国書刊行会のレムコレクション第2期、第4巻はレムのSF作家としての事実上のデビュー作である中編「火星からの来訪者」に初期の短編4作、さらに若い日の詩作をまとめた「青春詩集」を収録した一冊。 表題作は、火星からやってきた謎のロボット、アレアントロ…

ストルガツキー リットル・マン

ストルガツキーの「Noon Universe」の一作で1971年の作品。日本では英語版よりも早い1973年に深見弾氏の訳で「ソヴェート文学」という雑誌に掲載されたが、その後は全く出版されていない幻に近い作品。今回掲載雑誌が手に入ったので読んでみた。 「Noon Univ…

マーガレット・ミッチェル 風と共に去りぬ

ヴィヴィアン・リーとクラーク・ゲーブルが主演したあの有名映画の原作小説。文庫本で4~5冊の分量を持つ長大な作品。私はかなり昔の「河出書房世界文学全集」で一か月かけて読んだ。 全くもってすごい小説だ。ヒロイン、スカーレットと相手役のレットという…

ジャンニ・ロダーリ うそつき王国とジェルソミーノ

講談社文庫でイタリアの作家ロダーリの作品が、これまで3冊の短編集が出版されているのだが、4冊目は200ページほどの長編「うそつき王国とジェルソミーノ」。これまでの3冊は内田洋子さんの翻訳だったが、今回は山田香苗さんの翻訳に変更になっている。 大…

シュティフター作品集第2巻 習作集2

さてシュティフター作品集。昨年末に読んだ第1巻に引き続き第2巻を読了。こちらも4作の短編が収められている。 巻頭の「アプディアス」。この作品は実は発表当時すごく評判になったらしいのだが、この作家としては異色の作品。ユダヤ人を主人公にし、その舞…

ヴェルナー・ヴォルフ ブルックナー 聖なる野人

9曲の交響曲と宗教音楽などを遺したオーストリアの作曲家アントン・ブルックナーについての評伝と作品論を収めた一冊。私はこの作曲家の作品がかなり好きで交響曲の音源を相当数持っていて、ある程度はこの作曲家の生涯や作品の成立の経緯なども知ってはいる…

シュティフター作品集第1巻 習作集1

シュティフターは19世紀のオーストリアの作家。私はこの作家の作品が好きで、先日手に入れた松籟社の「シュティフター作品集」全4巻のうちの第1巻をなんとか年内に読了。 4作の中短編が収められているが、うち2作は以前に読んだものの訳違い。 「コンドル」…

ジョージ・R・R・マーティン 「七王国の騎士」

HBOのTVドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」(原作は「氷と炎の歌」シリーズ)の100年ほど前、ウェスタロスの七王国を舞台に草臥の騎士ダンクとその従者で実は王家の生まれの少年エッグが旅先でさまざまな事件に遭遇するという中編3作を収めた作品集。第1作「…

最近読んだ本

随分放置してしまったのでそろそろなんか書かないと生存を疑われそうなので。最近読んだ本まとめて簡単に書きます。 レオ・ペルッツ「テュルリュパン」 これは実は9月くらいに読んだ本。チェコの作家レオ・ペルッツの作品。17世紀、革命の150年前のフランス…

内田洋子 モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語

最近全然本が読めてないのはアマプラで「ゲーム・オブ・スローンズ」を毎日観てる全く本を読む時間が全くないからだ。このドラマは本当にすごい。しかし全73話だったか観るのはなかなかハード。とはいえもう50話過ぎた。まあそれは観てしまってから記事にす…

川端裕人 青い海の宇宙港

種子島がモデルの島、「多根島」に宇宙遊学生としてやって来た小学6年生の駆。虫とか自然が大好きであまり宇宙には興味がなかった駆だったが、宇宙オタクの周太、フランス人ハーフの萌奈美、地元の委員長タイプの希実の四人で作った「宇宙探検隊」のメンバー…

梅津時比古 冬の旅‐24の象徴の森へ-

ヴィルヘルム・ミュラーの詩にフランツ・シューベルトが作曲した連作歌曲集「冬の旅」は音楽史に燦然と輝く名作だ。24曲、ぶっ続けで聴いて1時間10分程度の大曲であるが、愛する人に捨てられ真冬の寒空の下あてもなくさまよう青年の絶望を24曲を通じて描いた…

三秋縋 君の話

2018年に単行本で出た時少し気になったのだのが、なかなか買う気にはなれずにいたらいつのまにか文庫化されていたので購入して読んでみた。 記憶を自由に操作できる世界。そんな世界で無為な人生を送ってきた主人公の青年千尋はある日なにもいいことがなかっ…

伴名練 なめらかな世界と、その敵

2019年だったかに単行本が出て話題になった日本SFの新星による6作収録の短編集。今回文庫化されていたので購入して読んでみた。 作者は1988年生まれだから私より一世代下。まず巻頭に置かれた表題作「なめらかな世界と、その敵」の冒頭でその異常で錯綜した…

ジャック・ヴァンス 「冒険の惑星」四部作

ジャック・ヴァンスの「冒険の惑星」4部作を読んだ。 これは原題では「Planet of Adventure」という、ヴァンスの作品としては珍しい書下ろしシリーズとして1968年から1970年にかけて出版されたもので、日本では主人公の名をとって「アダム・リース」シリー…

スタニスワフ・レム マゼラン雲

レムの初期の作品で、著者の意向でこれまで翻訳を許されなかったいわくつきの作品。 2段抜きで450ページにわたるかなりの大部で読むのに相当時間がかかった。 32世紀。人類は巨大宇宙船ゲア号でアルファ・ケンタウリを目指す片道10年の探査に出る。医師の父…

レイモン・クノー 地下鉄のザジ

レイモン・クノーの代表作「地下鉄のザジ」を、白水社レイモン・クノー・コレクションの久保昭博による翻訳版にて読了。 ザジという10歳くらい(?)の女の子がパリに住む叔父のガブリエルに預かられることになってやってくる。ザジはパリで地下鉄に乗ること…

アナトール・フランス 聖女クララの泉

白水社「アナトール・フランス小説集」の第8巻。この作家お得意の、宗教にまつわる短編を集めた作品集。 冒頭に置かれた「神父アドネ・ドニ」で、ここに収められた短編が「聖女クララの泉」のほとりで神父アドネ・ドニによって語られたものを書き留めたもの…

中村真一郎 秋

中村真一郎の「四季」四部作の第3作。私は第1作「四季」を2008年に、「夏」を2014年に読んでいて、今回ようやく第3作を読むに至ったわけだ。前2作の記憶も曖昧ななか読み進めると、前作では語り手である「私」の、自殺同然に亡くなった妻のことに触れながら…

ユヴァル・ノア・ハラリ 21Lessons

ベストセラーとなった「サピエンス全史」「ホモ・デウス」の著者で、イスラエルの歴史学者・哲学者の著者が、現代人と現代社会の直面する問題について、どのように思考し行動すべきかを語った著作。原著は2018年出版。本文だけで500ページの大著だが大変興味…

ダシール・ハメット  チューリップ

ハードボイルドの創始者ハメットの未完の中編小説「チューリップ」をメインに短編を集めた作品集。古本屋で安かったので購入して読んでみた。 表題作は花のチューリップとは全く関係ない話で、著者自身の身辺雑記のような小説である。表題のチューリップとは…

福永武彦 死の島

今日1月23日は私の最愛の小説、福永武彦「死の島」の日。これを記念して、以前旧ブログに上げたロングレヴューを再掲させていただきます。。 昭和29年1月23日。都内の小さな出版社に勤める小説家志望の青年相馬鼎(そうまかなえ)は、懇意にしている画家、萌…

シュティフター 石さまざま

先日紹介したケラー「白百合を紅い薔薇に」とともに中央公論社「世界の文学」第14巻に収録されていたオーストリアの作家アーダルベルト・シュティフターの代表作。6作からなる短編集。前にも書いたが岩波文庫の「水晶 ほか3編」ではそのうち4作しか収録さ…

スタニスワフ・レム 地球の平和

ついに刊行されたレムの「泰平ヨン」シリーズ最終作。長らく翻訳を待っていた作品をついに読むことができて大変嬉しい。 冷戦でエスカレートするばかりの軍備拡張に倦んだ各国の人々は、軍事産業をすべてAIに任せたうえで、月で行うことにする。しかしその後…

ケラー 白百合を紅い薔薇に

オーストリアの作家アーダルベルト・シュティフターが好きなのだが、彼の代表作で6作の短編からなる短編集「石さまざま」という作品がある。これが岩波文庫では『「水晶」ほか』とされて4作しか収録されていない。以前松籟社から2分冊で出ていたが現在は入…

ショーン・タン 遠い国から来た話

今年は延べ一ヶ月にもわたる入院があって、その間ほぼ一日一冊くらい読んだし、トータルではかなり本を読んだ。このブログで記事にしただけで50冊。記事にしてないものもある(実は今月もタブッキを二冊再読した)し、それなりに感銘を受けた作品もあったの…

モーリス・ルブラン 奇巌城

さて今回読んだのはルパンシリーズでも屈指の傑作とされていてファンも多い「奇巌城」。 ジェーブル伯爵邸で、殺人事件と絵画の盗難事件が発生。負傷したはずのルパンが見つからない中、高校生探偵イジドール・ボートルレが見事に謎を解く。やがて伯爵令嬢レ…

ペーテル・レンジェル オグの第二惑星

全く知らなかった作品だが、メルカリで見つけてしまった以上は東欧SF好きとしては外せないな、というわけで読んでみたハンガリーSF。 2600年前。宇宙探索から母星エーラに帰還した一隻の宇宙船があった。彼らは船内時間で20年に渡って様々な星々を旅してきた…

レーモン・クノー 人生の日曜日

前回短編集「あなたまかせの物語」が面白かったレイモン・クノー。この作家、フツーは「地下鉄のザジ」から読むんだろうけど、中古で出てたのでなんとなくこれを買って読んでみた。 1930年代後半のフランス。5年も兵役についていながら未だに二等兵のヴァラ…